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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)2237号 判決

原告

土屋明夫

ほか一名

被告

藤野運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告らそれぞれに対し、各一二八万四八四五円及び右各金員に対する昭和五九年一一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告らそれぞれに対し、各一三二九万四二七六円及び右各金員に対する昭和五九年一一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五九年一〇月六日午後九時一〇分ころ

(二) 場所 東京都府中市朝日町三丁目道路上(以下「本件事故現場」という。)

(二) 加害車両 普通貨物自動車(多摩一一い一三・四五)

右所有者 被告藤野運輸株式会社(以下「被告会社」という。)

右運転者 被告七五三木忠広(以下「被告七五三木」という。)

(四) 被害車両 自動二輪車(一多摩こ七二六六)

右運転者 訴外亡土屋一明(以下「亡一明」という。)

(五) 事故態様 被告七五三木が、夜間、駐車禁止区である本件事故現場に加害車両を駐車させていたため、亡一明が、被害車両を運転して、多摩町方面から甲州街道方面に向かつて進行して本件事故現場に差しかかり、進路前方の道路左側に駐車中の加害車両を発見して衝突を回避しようとしたものの、間に合わず、加害車両の右後部角に被害車両の前部が接触して転倒し、亡一明は、頭蓋骨陥没骨折兼動脈切断により出血死した。(右事故を以下「本件事故」という。)

2  責任原因

(一) 被告会社は、加害車両を所有し、これを自己のため運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。

(二) 被告七五三木は、夜間、駐車禁止、追い越し禁止の規制がなされている車道幅員九メートル、片側幅員四・五メートルの本件事故現場の道路に、加害車両の右側から中央線まで二メートルの間隔を開け、道路左側一杯に寄せて左側を通行できないようにして駐車させておいたもので、しかも、被害車両の後部から本件事故現場のすぐ手前にある交差点の端まで四・四五メートルしか離れていない位置に駐車させたうえ、夜間であるのに尾燈も点燈させていなかつた。

したがつて、被告七五三木は、駐車させてはならない場所に駐車させたこと自体に過失があるのみならず、尾燈を点燈させて駐車車両の発見を容易にさせるべき況意義務をも怠つた過失により、本件事故を発生させたものであるから、民法第七〇九条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。

3  損害

(一) 葬儀費用 七〇万円

原告らは、亡一明の葬儀を行い、これに七〇万円を各二分の一宛支出した。

(二) 逸失利益 三七〇三万五六八九円

亡一明は、本件事故当時、満一七歳の健康な男子で、高等学校を二年で中退して郵便局にアルバイトとして勤務したのち、これを退職して、調理師になるため専門学校への入学手続中に本件事故に遭つたものであり、本件事故により死亡しなければ、満六七歳まで稼働し、その間少なくとも昭和五九年賃金センサス第一巻第一表、企業規模計、産業計、学歴計、男子労働者、全年齢平均給与額である年額四〇七万六八〇〇円と同額の収入を得られたはずであるから、生活費として五割を控除し、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡一明の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は三七〇三万五六九九円(一円未満切捨)となる。

407万6800×0.5×18.169=3703万5689

(三) 慰藉料 一三〇〇万円

(三) 亡一明の死亡による慰藉料としては、右金額が相当である。

(四) 相続

原告土屋明夫は亡一明の実父であり、原告森谷一三は亡一明の実母であつて、原告らは、亡一明の損害賠償請求権を法定相続分に従つて各二分の一の割合で相続取得した。

(五) 過失相殺 二〇パーセント

以上の損害額は合計五〇七三万五六八九円となるところ、本件事故については、亡一明にも二〇パーセントの過失があるから、これを控除すると、損害額は合計四〇五八万八五五二円(原告ら各二〇二九万四二七六円)となる。

(六) 損害のてん補 一四〇〇万円

原告らは、右損害に対するてん補として自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から右金額を受領し、これを原告ら各二分の一の割合で損害額に充当した。

4  よつて、原告らは、被告ら各自に対し、本件事故による損害賠償として、各一三二九万四二七六円及び右各金員に対する昭和五九年一一月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の(一)の事実中、被告会社が加害車両を所有しこれを自己のため運行の用に供していた者であることは認めるが責任は争う。

同(二)の事実は否認し、責任は争う。

3  同3の事実中、(一)の葬儀費用及び(六)の損害のてん補の事実は認めるが、その余はいずれも不知。

4  同4の主張は争う。

三  抗弁

1  被告七五三木は、食事のため、加害車両を道路左端に駐車させていたものであるが、本件事故現場道路は、水銀燈の街路燈が設置されていて夜間でも明るい道路であり、その街路燈は加害車両の停止位置の左右にそれぞれ設置されており、しかも、事故現場は約一・五キロメートルにわたる直線道路で、被害車両の進行方向からの見通しは良好であつたから、亡一明は加害車両の存在を遠方から確認可能であつたものである。

2  しかるに、亡一明は、制動措置も採らずに加害車両に衝突していることを考えると、前方不注視であつたことはもとより、被害車両を時速約一〇〇キロメートルの高速度で進行させていたため、前方に加害車両を発見してもこれを避けるべく適切なハンドル操作ができなかつたものと考えられるから、本件事故は亡一明の一方的な過失によつて発生したものである。

3  したがつて、被告七五三木には過失はなく、被告会社は、自賠法第三条但書の規定により免責されるが、仮に、被告七五三木に過失があるとしても、亡一明の過失は重大であるから、大幅な過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否及び反論

1  抗弁事実中、本件事故現場道路が夜間でも明るいこと、亡一明が加害車両を遠方から確認可能であつたこと、被害車両が時速約一〇〇キロメートルの高速度で進行していたこと、本件事故が亡一明の一方的な過失によつて発生したものであること、被告七五三木に過失がないこと、亡一明の過失が重大であることは否認し、免責及び大幅な過失相殺の主張は争う。

2  本来、車道は、車両の通行のためにあるものであつて、駐車するためのものではない。ところが、一般に、道路に違法駐車する車両が少なくなく、これがため駐車車両に衝突したり、駐車車両に見通しを妨げられて発生する交通事故は後を断たない。このように違法駐車の危険性は極めて大きいものであり、本件のように違法に駐車している車両に被害車両が衝突した事故においては、まず違法駐車の過失が事故発生の主要な原因として問題とされるべきであり、その過失は重大というべきである。

3  そのうえ、本件においては、加害車両は、もともと駐車禁止の規制がなされている道路に、しかも特に駐車が禁止される交差点の側端から五メートル以内の位置に、尾燈も点燈させずに、駐車していたというものであつて、その過失は極めて重大である。

4  加えて、本件事故は、亡一明が加害車両を発見してハンドルを右転把しようとしたところ、対向車両があつたため十分に右転把することができず、あるいはハンドルを左に戻したため、加害車両の右後部角に衝突した可能性が最も大きく、そうでないとしても、亡一明が先行車両に続いて進行し、先行車両に見通しを妨げられて加害車両を視認できない状態で進行中、先行車両が加害車両を避けるため右転把して進路を右に変更し、このとき初めて加害車両を発見して右転把したものの、間に合わずに加害車両に接触したものと考えられるのであつて、右いずれの場合であつても、事故の責任は加害車両を駐車させていた被告七五三木にあるのであり、亡一明の前方不注視のため、あるいは被害車両が高速度で進行していたために本件事故が発生したものとは考えられない。

5  したがつて、被害車両が駐車中の加害車両に衝突したという事実から、亡一明に過失があるものとして過失相殺するとしても、その割合は、最大限二割が相当である。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。

二  次に、責任について判断する。

1  請求原因2(責任原因)の(一)の事実中、被告会社が加害車両を所有し自己のため運行の用に供していた者であることは当事者間に争いがない。

2  当事者間に争いのない請求原因1の事実に、原本の存在と成立に争いのない甲第一号証、乙第一、第二号証、本件事故現場付近を撮影した写真であることにつき争いがない甲第三号証の一ないし四、証人松田幸夫、同後藤政広の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、

(一)  本件事故現場道路は、多磨町方面から甲州街道方面に通じるアスファルトによつて舗装された平坦な直線の道路で、中央線によつて二車線に区分され、車道幅員約九メートル、片側幅員約四・五メートルで、車道の両側には歩道が設置されており、最高速度が時速四〇キロメートルに規制され、終日駐車禁止、追い越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制がなされており、本件事故当時路面は乾燥していたこと、

(二)  被告七五三木は、加害車両を本件事故現場道路の多磨町方面から甲州街道方面に向かつて左側側端に駐車させて食事に行き、その際、加害車両の尾燈や駐車燈を点燈させていなかつたこと、加害車両は、車長八・六〇メートル、車幅二・一二メートル、車高二・五メートルで、後部荷台には幌が装備されていること、加害車両の右側面から車道左側端までは約二・三メートルであり、したがつて、加害車両の右側面から中央線までは約二・二メートルであつたこと、加害車両のすぐ後方はT字型の交差点になつており、加害車両は右交差点の側端から五メートル以内の位置に駐車していたこと、

(三)  亡一明は、被害車両を運転し、本件事故現場道路を多磨町方面から甲州街道方面に向かつて進行してきたところ、進路前方の道路左側に駐車中の加害車両をよけることができずに同車の右後部角付近に追突したこと。

(四)  本件事故の目撃者は、警察官に対し、乗用車を運転して時速約四〇キロメートルで進行していたところ、本件事故現場の二〇〇ないし三〇〇メートル手前で被害車両が左側を追い抜いて行き加害車両に衝突した旨供述しており、本件事故の捜査にあたつた警察官は、右目撃者の供述等を総合して、被害車両は時速約六〇キロメートル以上の速度で走行していたものと判断していること、

(五)  本件事故の直後に警察官によつて行われた実況見分の際、本件事故現場付近の路面にはスリツプ痕は発見されなかつたこと、

(六)  本件事故現場道路の両側には一定間隔で連続して街路燈が設置されており、ちようど加害車両の駐車位置の両側付近に街路燈があること、ただ、加害車両の左側の街路燈は、本件事故当時点燈していなかつたこと、それでも、本件事故現場道路は、街路燈により全体的に夜間でも相当に明るいため、十分注意していれば加害車両の後方約一〇〇メートルの地点から加害車両の車体を視認することができること、

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる確実な証拠はない。

3  右の事実によれば、被告七五三木は、もともと駐車禁止の規制がなされている本件事故現場道路に、しかも特に駐車が禁止される交差点の側端から五メートル以内の位置に、夜間、尾燈も駐車燈も点燈させずに、加害車両を駐車されていた過失により本件事故を発生させたものというべきであるから、同被告には、民法第七〇九条の規定に基づき、損害賠償責任があることが明らかである。

右のとおり、被告七五三木に過失がなかつたとは認められないから、被告会社の免責の抗弁は理由がなく、したがつて、被告会社は、自賠法第三条の規定に基づき、損害賠償責任があるものというべきである。

4  一方、右認定の事実、なかんずく目撃者の供述する目撃状況、被害車両のスリツプ痕が発見されなかつたこと、本件事故現場道路の明るさ等の事実を総合すると、亡一明には、被害車両を制限速度を超える時速六〇キロメートル以上の速度で走行させたうえ、前方を十分注視していなかつた過失があるものと推認することができ、右推認を覆すに足りる確実な証拠はない。

右の亡一明の過失と被告七五三木の過失を対比すると、亡一明には、本件事故の発生につき、六五パーセントの過失があるものと認めるのが相当である。

三  進んで、損害について判断する。

1  葬儀費用 七〇万円

原告らが亡一明の葬儀を行い、これに七〇万円を各二分の一宛支出したことは、当事者間に争いがない。

2  逸失利益 三三六四万一九七二円

成立に争いのない甲第二号証の一、二及び原告森谷一三本人尋問の結果によれば、亡一明は、昭和四二年八月二六日生まれの男子で、本件事故当時、満一七歳であつたこと、亡一明は、本件事故前は健康で、高等学校を二年で中退して郵便局に勤務したのち、これを退職して、調理師になるため専門学校への入学手続中に本件事故に遭つたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右の事実によれば、亡一明は、本件事故により死亡しなければ、満一七歳から満六七歳まで五〇年間稼働し(亡一明は、調理師になるため専門学校への入学手続中であつたとはいえ、専門学校在学中にアルバイトとして稼働する可能性も考えられるから、満一七歳から稼働するものとして、相当でないとはいえない。)、その間少なくとも昭和五九年賃金センサス第一巻第一表、企業規模計、産業計、小学・新中卒、男子労働者、全年齢平均給与額である年額三六八万五六〇〇円を下らない金額の収入を得られたはずであるから、生活費として五割を控除し、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡一明の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は三三六四万一九七二円(一円未満切捨)となる。

368万5600×0.5×18.2559=3364万1972

3  慰藉料 一三〇〇万円

前示の亡一明の年齢その他本件において認められる諸般の事情を総合すると、亡一明の死亡による慰藉料としては、一三〇〇万円をもつて相当と認める。

4  相続

前掲甲第二号証の一、二及び原告森谷一三本人尋問の結果によれば、原告土屋明夫は亡一明の実父であり、原告森谷一三は亡一明の実母であつて、原告らは、亡一明の損害賠償請求権を法定相続分に従つて各二分の一の割合で相続取得したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

5  過失相殺

以上の原告らの損害額は、それぞれ二三六七万〇九八六円となるところ、前示のとおり、亡一明には、本件事故の発生につき六五パーセントの過失があるものと認められるから、右損害額から過失相殺として六五パーセントを控除すると、残損害額は、原告らそれぞれにつき八二八万四八四五円(一円未満切捨)となる。

6  損害のてん補 一四〇〇万円

原告らが、右損害に対するてん補として自賠責保険から一四〇〇万円を受領し、これを原告ら各二分の一の割合で損害額に充当したことは、当事者間に争いがないから、これを控除すると、残損害額は、原告らそれぞれにつき一二八万四八四五円となる。

四  以上によれば、原告らの被告らに対する本訴請求は、本件事故による損害賠償として、被告ら各自に対し、原告らそれぞれにおいて、各一二八万四八四五円及び右各金員に対する本件事故発生の日ののちである昭和五九年一一月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林和明)

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